2023年に、「空飛ぶクルマ」官民協議会は、交通管理の要素を含むコンセプトペーパーを発行して、コリドーやバーティポートの概念を紹介しています[1]。これ自体、大変参考になる資料です。ただし、用語の説明が中心であり、どのような仕組みかの検討を深めていく必要があります。このペーパーに書かれているように、「空飛ぶクルマ」に限っては、当面操縦士が機上におり、有視界飛行方式(VFR)に即した飛行を行います。しかし、従来の航空機に比べて、速度が劣る新しい航空機を、すでに混雑している空港への交通流に受け入れる課題や、比較的低高度を飛ぶ航空機に監視サービスや気象情報サービスを行う限度、など、頻度の低い初期的な次世代エアモビリティの運用でも、既存の航空交通管理システム(ATM)を次世代エアモビリティに適用するには多くの課題があります。
また、「空飛ぶクルマ」の自動化が進んだ暁には、いずれは無操縦者化と考えられていますが、見張り義務をどのように達成するのか、技術と制度双方の発展が必要です。例えば、ドローンが目視外飛行(BVLOS; Beyond Visual Line of Sight)を行う場合には、現在カメラの設置が求められていますが、「空飛ぶクルマ」がドローンより高度で他の有人VFR機も存在する空域を飛行する場合に、どの通信を利用して、どのデータをやりとりすれば見張り義務を達成できたと解釈でき、さらに安全性を担保できるのか。機体間通信による衝突回避手段の提唱も存在するが、航空で求められる目標安全レベルや、既存機が存在する中での新たな装備品の普及など簡単ではなく、さらに空中衝突を回避するためには基本的には重層的な対策を取ることが必要不可欠と考えられていて、やはり新たなシステムの検討は必要に思われるのです。
現在、次世代エアモビリティの航空管制システムについては、ATMの発展よりも、ドローンの安全な活用に必要とされる航空管制システム(UTM: Unmanned Traffic Management)を発展させる形での議論が多いように見受けられます(その場合UAM Traffic ManagementやUnified Traffic Managementなどと言われることが多い)。UTMはBVLOS運用を含むドローンを高密度でも安全に運航できることを目指す制度も含めた広義のシステムであり、どのような品質の情報を誰とどのような形式で交換していくのが効率的で安全かと、2010年代ごろ、米国航空宇宙局(NASA)を中心に研究開発が広がりました。
UTMはまずはATMと対象とする機体や空域を分ける異なるものと切り分けて考えられていますが、空は繋がっており、ドローンやUTMの導入が既存のATMシステムに何かしらの影響を与えうります。さらにいずれはUTMとATM間を横断する機体も出てきます。ドローンやUTMが既存のATMシステムの安全性や効率に悪影響を及ぼしてはいけないと、国際民間航空機関(ICAO)は加盟国に対してUTMガイダンス[2]を示しています。そこでは、UTMサービスの提供の監視は規制当局の責任であること、公共安全活動への支援など航空機の優先順位づけに関する方針が適用されるべきこと、空域へのアクセスは公平であること、などの原則や、UTMシステムを構成するサービス例(活動報告、空域認可サービス、分離サービス等)、空域や手順の設計に対する要求事項の適用性や周波数スペクトルの利用可能性など各地で検討すべき課題などが示されていて、UTMの現状を理解するのに分かりやすい文章だと思います。
徒然に書いてきましたが、何が言いたいか。運航管理は、次世代エアモビリティの実現のとても重要な要素の一つだということ、そして、もしある自治体がその地域における次世代エアモビリティ構想を挙げているのならば、運航管理の仕組みも議題に入れておくべきだと思うのです。システムの導入自体を検討するのは、機体が出揃っていない中、不確実性高く難しいとしても、どのようなものが構想実現において必要かの議論を始めてみてはどうかと思っています。例えば、その構想において、ドローンや「空飛ぶクルマ」はどれくらいの頻度で運航が望まれているのか、衝突回避や騒音等の管理のために、新たな運航管理システム機能は地域として必要かどうか、その管理においての、国と地方自治体、そして民間等の役割と責任の確認、運航管理のビジネスケースの想定、その地域の構想に必要なインフラの要件などを検討することなどの議論は、国の議論を待つよりも地域としてスタートしたほうが効率的で意義ある議論ができるのではないだろうかと思いました。